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令和6年産 近江米生産基本方針

(公開日 令和5年12月14日)

令和5年(2023年)12月
近江米振興協会

1 情勢
【令和5年産米の作付状況】
・全国の主食用米の作付面積は、前年産(125.1万ha)から9,000ha減少の124.2万ha、生産量は前年產(670.1万トン)から9.1万トン減少の661万トンとなった。
・本県での主食用米の生産量は、昨年11月の滋賀県農業再生協議会臨時総会において設定された生産目標(生産の目安)144,840トンに対し8,740トン少ない136,100トンとなった(面積換算値では、27,962haに対し27,000ha)。
【本県産米の作柄と品質の概況】
 <早生品種>「みずかがみ」、「コシヒカリ」、「キヌヒカリ」
・「みずかがみ」では、6月が日照不足で経過したことで茎数が少なく推移し、穂数が平年より少なくなった。7月下旬~8月上旬は高温となったが、 品種特性である高温登熟性が発揮され、登熟が順調に進み、品質は平年並であった。
・「コシヒカリ」と「キヌヒカリ」では、6月が日照不足で経過したことで茎数が少なく推移し、穂数が平年より少なくなった。倒伏はほとんど見られなかったが、8月下旬までの高温の影響により登熟後半に栄養不足となることで、平年より減収した。 出穂期にあたる7月下旬から続いた高温の影響により、白未熟粒の発生が多く、1等米比率は昨年を下回った。なお、一部のほ場ではいもち病や縞葉枯病、ごま葉枯病の発生で減収程度が大きかった。
 <中生品種>「日本晴」、「きらみずき」、「秋の詩」
・8~9月の高温の影響により登熟後半に栄養不足となり、収量減少・玄米品質低下の要因となった。また、台風7号の接近に伴う強風により8月15日頃に出穂期を迎えたほ場では、不稔籾が発生し、収量減少の要因となった。高温登熟性に優れる「きらみずき」の1等米比率は他品種と比べて高く、良好であった。
・農林水産省が公表した作況指数(10月25日現在)は、全国が「101」の「平年並」に対し、本県は「97」の「やや不良」、水稲うるち玄米の1等米比率(10月31日現在)は、全国平均61.3%に対し、本県平均は56.0%となっている。
【需給および価格の動向】
・令和5年産米の全国の作柄が「平年並」で、生産量は661万トンと、適正生産量とされていた669万トンを下回り、需給は締まる傾向にある。
・このため、令和5年産米の相対取引価格(全国全銘柄平均)は前年比110%と上昇し、近江米の主要銘柄についても、前年より9~13%程度上昇している(出回りから10月までの年産平均価格)。
【令和6/7年の需要見通しと令和6年産の生産量】
・国の「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針(以下「基本指針」という。)では、国民1人当たりの米消費量および人口の減少を考慮し、令和6/7年の需要量を671万トンと見通すとともに、今後も需要量が毎年10万トン程度減少することが見込まれるため、引き続き各産地で需要に応じた生産・販売を行っていく必要がある。このことから令和6年産主食用米の適正生産量は令和5年産の生産量見通しと同水準の669万トンと設定された。
【今後の情勢】
・令和5年産米は作付面積の減少や作柄が 「やや不良」となったため、集荷業者等に米が集まらず、卸売業者や実需者等が求める近江米の数量を供給できていない状況である。
・一方、全国の主要産地では需要を確保するための取組が加速し、産地間競争が一層激化している状況であり、これまで以上に卸売業者等が求める近江米の数量をしっかりと生産・供給することが重要である。
・こうした背景から、県内外における近江米の需要に対応するため、事前契約等による生産と販売の結び付きのもとで安定した生産と供給に取り組む体制づくりを進め、近江米のブランド力の向上と生産者の所得向上を図ることが喫緊の課題となっている。

2 令和6年産米の生産に向けた基本的な考え方
・滋賀県農業再生協議会では、令和6年産米の生産目標(生産の目安)について、「基本指 針」をはじめ、本県産米の民間在庫量、需要実績の推移等を総合的に勘案し、146,100トンと設定されたところ。
・この数値を目安とし、事前契約(播種前契約、複数年契約等)に基づく需要に応じた米づくりなど産地の戦略的な取組を着実に進めることで、全国に占める近江米の需要量シェアの維持・向上を図る。
・具体的な取組として、集荷業者は卸売業者等が求める品種や用途等の情報を把握するとともに、生産者に対する情報提供や作付提案を行い、事前契約による実需者との結び付きを強化する。
・生産者は、求められる米をしっかりと生産し供給するなど、契約に基づいた生産を基本とし、契約があるものを確実に出荷することで経営の安定化を図る。
・関係機関・団体は、播種前契約に基づき既に播種されている麦や、市町農業再生協議会から示される生産目標との整合を図りながら、「求められている米」の作付けを「誰に」「どのように」推進するかを検討されるよう働きかけます。
・「みずかがみ」や「コシヒカリ」等の良食味品種については食味の高位安定化を進め、食味ランキング(日本穀物検定協会)での「特A」取得をはじめ、「環境こだわり米」の比率を高めるとともに、その象徴となる「オーガニック米」等の特色ある米づくりやGAP等の取組による安全・安心な米づくりを進め需要の拡大を図る。
・令和6年産で本格デビューを予定している近江米新品種「きらみずき」について、琵琶湖の保全に留まらず、温暖化防止や生物多様性の保全など、持続可能な農業のシンボルとして位置付ける。そのため、「オーガニック栽培」 および「化学肥料(窒素成分)や殺虫・殺菌剤(化学合成農薬)を使用しない栽培」に限定し、「おいしさ」とともにこうした環境保全に対する一歩進んだ取組の価値を消費者が共感し支持・購入いただけるよう関係者等と共に推進を図る。
・栽培においては、恒常化している気候変動、特に夏期の異常高温に適応するため、土づくりをはじめ基本的な技術対策を徹底するとともに、生育状況に応じた施肥や水管理、温暖化に伴い増加する病害虫防除などの迅速な情報提供により対策技術の実践を促し、収量向上と外観品質の安定を図る。
・農地の集積・集約化や農業機械の効率化、土壌診断等に基づく適正施肥等により生産コストの低減を推進する。
・これらの対策を総合的に実施することにより、実需者から求められる「環境にやさしく」、「高品質」で、「安全・安心」、「おいしい」近江米の生産を推進するものとする。

3 主要品種の作付方向
・マーケットインの視点に立った米づくりの指針となる「近江米生産・流通ビジョン」との整合性を図りつつ、契約に基づく生産と安定供給を推進する。
・具体的な推進にあたっては、家庭用、業務用等の用途別需要情報を関係機関が収集・共有するとともに、生産者にその情報を確実に伝達したうえで作付提案を行い、集荷業者と生産者の間の播種前契約を中心とした事前契約を積極的に進めるなど、需要に応じた生産を行った上で、必要数量が集荷できるよう全ての関係者が連携して取り組む。
・中でも家庭用として流通する「みずかがみ」は、県内をはじめ京阪神で一定の需要があることから、収量を確保しつつ、品質および食味の均質かつ高位安定化が図れるよう食味分析等の徹底した品質管理のもとで作付けを推進する。
・主力品種の「コシヒカリ」については、「環境こだわり栽培」の比率を高めるとともに「環境こだわり米こしひかり」としての販売を拡大する。
・多くが業務用に流通している「キヌヒカリ」「日本晴」等の品種については、需要動向を注視しながら実需者の意向を踏まえた作付けと供給に努めるとともに、収益性を高めるために、低コスト、多収栽培を進める。
・また、気候変動によるリスク分散の観点から、「みずかがみ」「コシヒカリ」「キヌヒカ リ」の早生品種と、 「秋の詩」「日本晴」などの中生品種等を組み合わせ、作期を分散した作付けを推進する。併せて、高温耐性のある 「みずかがみ」「きらみずき」を推進する。

4 技術対策
(1)収量の安定化と品質の向上(全品種共通)

・近年は、気候変動の影響により、平年に比べて「気温」、「日照時間」および「降水量」の乱高下が認められ、 また、大型台風等の気象災害が頻発するなど、近江米の収量と品質が不安定となっている。
・こうした気候変動に適応し、良質な近江米を生産するために、再度、基本技術を徹底する。特に、緊急的に対応が必要な技術については栽培期間中でも臨機応変に対応できるよう促す。取組が不十分な技術については、生産者が着実に実践するよう関係者が誘導を図り、安定した収量の確保と1等米比率80%以上を目指す。
 <必須基本技術>
 ☞ 土壌診断結果に基づき有機物や土づくり肥料を施用するとともに、深耕等により根張りを促進するなど、土づくりを実践し栄養凋落を防止する。
 ☞ 前作の稲わらは優良な有機物であるため秋期(年内)にすき込み、腐熟を促進させる。
 ☞ 産地や品種、目指す米づくりに応じた収量目標を設定し、過度の窒素施肥や有機物施用を控える。
 ☞ 健全な育苗に努める。
 ☞ 3~4本/株の細植を基本とし、350~400本/㎡の穂数が確保できるよう、品種特性や土壌条件等に合った適切な栽植密度を選択する。
 ☞ 施肥田植機では肥料の種類ごとに目盛りを調整し、規定量を確実に施肥する。
 ☞ 活着後は浅水管理に努め、分げつを促進させる。
 ☞ 還元障害は、前年の作物残さや雑草の腐熟が進んでいない状態で入水・代かきを行うと発生しやすくなるので、作物残さのすき込みは発生後早めに行い腐熟を促進させる。例年、冬雑草の多いほ場では、早春の砕土による除草や、入水・代かきまでの期間を十分あけて砕土・すき込みを行い、分解を促すとともに、移植後は分げつ期の水管理に注意する。
 ☞ 適期・適切に中干しを行う。
 ☞ 出穂前後各3週間の常時湛水(水深3~5㎝に管理)を行い、品質低下の防止と収量向上を図る。
 ☞ 穂肥は、ほ場の地力、稲の生育(草丈、茎数、葉色)に応じて調整し、穂揃期の葉色が葉色板4.0以下を目標とする。 また、全量基肥(一発肥料)栽培においても幼穂形成期以降の葉色が淡いほ場では、葉色を維持するため穂肥を施用する。
 ☞ 斑点米カメムシによる被害を防ぐために、出穂3週間前と出穂期の2回、畦畔の草刈りを行い、併せて適期に適切に薬剤防除を行う。
 ☞ 収量や品質に大きく影響する登熟期の水管理については、収穫作業に支障がない程度に落水を遅らせ、間断かんがいによる水分供給を徹底する。
 <臨機応変な対応>
 ☞ 病害虫防除所から発表される発生予察情報に基づき、適期適切な病害虫防除を実践する。特に、「いもち病」、「斑点米カメムシ類」および「トビイロウンカ」は収量および品質に大きな影響を及ぼすため、情報には注意する。
 ☞ 農業技術振興センターから発信される「水稲生育診断情報」、気象災害等の発生が予 想される場合に発信される「技術情報」等に基づき、臨機応変に対策を実践する。特に、「きめ細やかな水管理」と全量基肥栽培における「追肥の必要性」には注意する。

(2)「みずかがみ」 の収量・食味の高位安定化
・「特A」産地に相応しい良食味米生産に努め、消費者等の期待に応えることが重要である。
・このため、令和5年2月に近江米振興協会が発行した「みずかがみ栽培マニュアル」に基づく技術対策を徹底する。

5 「安全・安心」な滋賀の特色ある米づくり
・「環境こだわり米」の生産拡大を図ることとし、区分荷受け・区分管理により、「環境こだわり米」としてのロットを確保するなど、安定した流通に取り組む。
・「みずかがみ」については、全て「環境こだわり栽培」であることから、「環境こだわり米こしひかり」と「みずかがみ」について専用パッケージを用いて販売するなど安全・安心な近江米の代表的取組として継続する。
・さらに、水稲では環境保全型農業直接支払交付金の取組面積が全国一であること、生産者が国民的資産である琵琶湖の環境保全のために努力していることを「おいしさ」とともに県内外に発信するとともに、環境こだわり農業の象徴的な取組として「オーガニック近江米」や「きらみずき」を推進する。
・食品としての安全性の確保に加え、環境保全、労働安全等を目的としたGAPの取組とその高度化に向けての実践を推進する。
・カドミウムの吸収を抑制するため、土づくり肥料の施用および出穂前後各3週間の常時湛水を徹底する。

6 コスト低減を図るための技術対策等
・集落営農による水稲経営の一元化、担い手への農地の集積・集約化、作期分散に配慮した品種の作付けを進め、施設・機械の効率利用を図り、コスト低減を推進する。
・近年、省力化やコスト削減につながるとして期待の大きい、水田の水管理遠隔操作技術、自動操舵機能付きトラクタ・田植機およびドローンを用いたリモートセンシング等のICT等の先端技術を活用したスマート農業を推進する。
・直播栽培など低コスト・省力技術の普及拡大を図る。
・土壌診断や生育診断等に基づく土づくりや効率的な施肥を進め、資材コストの低減を推進する。

7 環境保全対策の推進
・琵琶湖および周辺環境への負荷を軽減して農業の持続的発展を進めていくために、地力増進作物の作付けや自動操舵機能付き田植機の活用、農業濁水の流出防止、農業系廃プラスチックの排出抑制に取り組む。
・特に緩効性肥料の被膜殻が意図しない形で河川等へ流出することを防ぐため、 水管理は適正に行う。

8 普及推進体制
・これらの対策等の着実な実践を図るため、次の取組により、関係者の情報共有、農業者への周知を図る。
 ☞ 需要に応じた米づくりを進めるため、品種別、用途別の生産状況や流通・販売動向について、あらゆる機会を通して生産者に対し確実に伝達する。
 ☞ 安定した作柄や品質の高位安定化を図るため、生育情報の発信、啓発資材の配布、農談会の開催等を通してタイムリーな情報伝達を徹底する他、現地研修会の開催や部会組織等での研鑽活動を通して技術の実践に結び付ける。


別記
 収量、外観品質および食味向上のための重点技術対策

① 土づくり
□ 秋耕による稲わらのすき込み
□ 有機物や土づくり肥料の投入(土壌診断の実施)
□ 深耕(作土深15㎝以上を目標)

② 植え付け(「みずかがみ」は極端な疎植をしない)
□ 適期植え  □ 細植え  □ 適正栽植密度

品種適期植え細植え適正栽植密度(坪あたり株数)
5月上旬5月中旬5月下旬湖辺粘質湖辺砂質平坦中山間
みずかがみ×3~4本/株6060~7070
コシヒカリ×50~606060~70
キヌヒカリ
中生・晩生

栽植密度
(/株)
50株60株70株
必要苗箱数
(/反)
14~1516~1718~20
※播種量150g/箱、植え付け本数3~4本/株

③施肥
□地帯別の適正かつ確実な基肥、追肥施用
・高温時における登熟期の栄養不足を回避するため、適期に必要量を確実に適用する
倒伏を回避しつつ登熟後半まで栄養状態を維持するめ、分実施系または緩効性肥料の利用とする(幼穂形成期までの生育量が過剰の場合は、分実施系の2回目を重視)適用する)。

□ 生育に応じた穂肥施用
 (幼穂を確認し葉色、株張りに応じて穂肥を適用する)

□ 大豆跡の適正施肥
・「みずかがみ」の場合、基本は基準の半量が上限であるが、地力が低い場合や、大豆の収量が思わしくなかった場合は、施肥量を増量するなど調節する。一例として、大豆の収量が180kg/10a以下の場合は、基準量の7割程度を適用する。

□ 全量基肥一発の必要量投入
田植え前に、施肥量を調整するダイヤルの調整を行い、落下量を確認し、確実に施肥する。

□ 気候変動に対応した施肥の実践
・全量基肥一発肥料を用いた栽培においても、気象の推移によっては追肥が必要になる場合があることを認識し、生育情報を参考に気候変動に応じた施肥を実践する。

④水管理・防除・収穫
□ 活着後の浅水管理

□ 早めの溝切りと中干し
・茎数が目標穂数の8割になったら速やかに中干しを行う。
・中干しの実施により太く強い茎を作るとともに、収穫前まで入水できる田面の硬さを確保する。

□ 出穂前後各3週間は常時湛水(水を切らないように、水深3~5㎝で管理)

□ 収穫5日前まで間断かんがい(胴割粒の防止、粒大の確保)

□ 発生予観察に基づく防除(いもち病、紋枯病の本田防除)
・過去に発生が見られなくても、温化に伴い増加する病害虫(トビイロウンカ等)に注意する。

□ 畦畔2回連続草刈り
 (斑点米カメムシ防除 出穂3週間前と出穂期の2回連続)

□ 品種別に適期に防除(斑点米カメムシ防除)
・「みずかがみ」や中生品種で被害が多いところは注意

□適期収穫(籾黄化率:85%が目安で品種特性に注意、刈り遅れない)

□ 適正な乾燥(高水分籾を急激に乾燥しない)


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